…なんて、偉そうに始めてみたけど、正直に言うわね。今、この文章を書いているのは深夜の2時。サーバーがどうとか、クライアントの無理難題がどうとか、そういう日々の喧騒からやっと解放された時間。こんな時間に私が何を考えてるかというと、「あー、もう全部放り出して温泉にでも行きたい」ってこと。
笑えるでしょ?IT企業の社長なんて聞こえはいいけど、現実はこんなもん。キラキラした世界じゃない。泥臭くて、地味で、理不尽なことで腹が立つ毎日。君たちがこれから飛び込む世界も、たぶん、そんなに変わらない。
でもね、年に一回だけ、このどうしようもなく面倒なIT業界が、最高に愛おしく思える日があるの。それが『Cloud Operator Days Tokyo』、私たちがCODTって呼んでる、あのお祭りの日。
今日は、その話をさせて。教科書にも、会社の研修資料にも載ってない、私の本音の話。
「コミュニティ」って言葉が、昔は嫌いだった
いきなりごめんなさい。でも、本当なの。なんか馴れ合いみたいで、意識高い人たちの集まりみたいで、ちょっと苦手だった。私が若かった頃は、技術は一人で盗んで、磨くものだと思ってたから。
でも、会社を立ち上げて、一人じゃどうにもならない壁に何度もぶつかって…。そんな時、藁にもすがる思いで参加したのが、数年前のCODTだった。
会場に入って驚いた。スーツ姿なんてほとんどいない。みんな、普段着で、そこら中でPCを開いて何か作業してたり、知らない人同士で「あの件、結局どうなりました?」「いやー、それがダメで…」なんて、まるで昨日の続きみたいな会話をしてる。
登壇者も、流暢なプレゼンなんてしない。緊張で声が震えてたり、資料がうまく映らなかったり。でも、語られる言葉には、嘘がなかった。「この実装で3日徹夜しました」「上司を説得するのに半年かかりました」…そういう、生々しい体験談ばかり。
その時、ふっと力が抜けたの。「ああ、みんな同じなんだ」って。一人で戦ってる気になってたけど、日本中に、こんなにたくさんの仲間がいたんだって。私が嫌いだった「コミュニティ」は、馴れ合いの場所じゃなくて、傷だらけの戦士たちが束の間、鎧を脱いで傷を舐め合う、野戦病院みたいな場所だったのよ。
■データなんて、後からついてくるもの
よくイベントの価値を示すのに、参加者数とかセッション数の表が使われるでしょ。
年度 | 私の勝手な印象 |
2022 | まだまだ身内感。でも熱気はヤバかった。 |
2023 | 「あの人、Twitterで見たことある!」が増えてきた。 |
2024 | 若い子がすごく増えた。休憩時間の雑談が一番面白い。 |
2025 | もう、お祭り。カオス。でも、それがいい。 |
ほら、こんな感じ。公式の統計データ(もちろん、そういうのも大事よ)より、私にとってはこっちの肌感覚の方がずっとリアル。数字じゃなくて、「熱」なのよ、あそこにあるのは。
OpenStack15周年?それがどうしたって話。
今年の目玉は「OpenStack15周年」らしいわね。正直、ピンとこないでしょ?「なんか昔流行ったやつ?」くらいの感覚かもしれない。
うちの会社でも、数年前にプライベートクラウドをOpenStackで組んだことがある。はっきり言って、地獄だったわ。ベンダーに丸投げできるような甘い世界じゃない。英語のドキュメントと格闘して、原因不明のエラーに頭を抱えて、夜中にデータセンターに駆け込んだことも一度や二度じゃない。
「なんでAWSじゃダメなんですか!」って、若いエンジニアに泣きつかれたこともあった。その通りよ。楽な道はいくらでもあった。でも、どうしても自分たちの手で、自分たちのインフラを完全にコントロールしたかった。あの時、もしOpenStackのコミュニティがなかったら、うちの会社は潰れてたかもしれない。
メーリングリストに拙い英語で質問を投げたら、会ったこともないブラジルのエンジニアが「それはたぶん、このパラメータが原因だぜ!」って返事をくれたり。国内の勉強会で「もう無理です…」って愚痴ったら、「うちもそこで3ヶ月ハマりましたよ」って笑いながら解決策を教えてくれる人がいたり。
だから、私にとってOpenStackは、ただの技術じゃない。あの時の苦しみと、助けてくれた人たちの顔がセットで思い出される、青春そのものみたいなものなの。15年続いた理由なんて、難しい理屈じゃない。そういう、人と人との繋がりがあったから。ただ、それだけなんだと思う。
失敗談こそ、最高の教科書
CODTで語られる事例って、本当にひどいのよ(笑)。
事例の記憶 | 私の感想 |
中小企業の自動化改革 | 「自動化したはずが、余計に仕事が増えた話」から始まった。最高。 |
AI予兆検知運用 | 日立さんみたいな大企業が「AI、最初は全然言うこと聞いてくれませんでした」って正直に話すのがすごい。 |
OpenStack×エッジ | 「現場に設置したら、夏場の熱でサーバーが落ちた」みたいな話。他人事じゃない。 |
コミュニティ連携事例 | 「引き継ぎ資料がなくて、退職した人に電話した」って話、うちもやったことある。 |
あるスタートアップの若い子が、「IaC(Infrastructure as Code)を導入して、何度もインフラを全部吹き飛ばしました」って、笑いながら話してたセッションが忘れられない。普通なら隠したいじゃない、そんな大失敗。でも、彼はそれを「一番の財産です」って言ったの。
失敗を隠さない。それを笑い飛ばして、みんなの教訓にする。なんて強いんだろうって、本気で感動した。キラキラした成功事例を100個聞くより、たった一つの、そういう生々しい失敗談の方が、よっぽど私たちの血肉になる。
他のイベントとの決定的な違い
誤解しないでほしいんだけど、AWS Summitとか、他の大きなイベントを否定する気は全くないの。最新情報をキャッチアップするために、私も参加するし、うちの社員にも行かせる。
でもね、家に帰るときの気持ちが、全然違うのよ。
大きなイベントの帰りは、「ああ、うちはまだまだだな」「あれもこれも勉強しなきゃ」って、少し焦る気持ちになることが多い。宿題をたくさん抱えて帰る感じ。
でも、CODTの帰りは、違う。なんていうか、飲み会で友達と語り明かした後のような、不思議な高揚感と安心感がある。「よし、明日からまた頑張るか!」って、自然に思える。
どっちが良いとか悪いとかじゃない。でも、もし君が今、仕事に少し疲れていたり、一人で悩んでいたりするなら、必要なのは新しい宿題じゃなくて、背中を叩いてくれる仲間なんじゃないかな。
私たちの仕事は、社会の「心臓」を動かしてる
毎日モニターを睨んで、キーボードを叩いて。ふと、「私、何のためにこんなことしてるんだっけ?」って思うこと、ない?
でもね、君が今見ているそのシステムは、どこかの会社の、誰かの生活を、確実に支えてる。自治体のサービスかもしれないし、病院の予約システムかもしれない。私たちが「運用」しているのは、社会の心臓なのよ。私たちが手を止めれば、社会のどこかで、誰かが必ず困る。
その責任は、ものすごく重い。でも、同じくらい、誇らしい仕事だと思わない?
CODTで話している人たちは、みんなそのことを知っている。自分の仕事が、ただの作業じゃなくて、社会に繋がっていることを、肌で感じている。だから、あんなに熱く語れるんだと思う。
最後に、生意気な先輩から一言
長々と、私の自分語りに付き合ってくれてありがとう。
別に、「絶対にCODTに参加しろ!」なんて言うつもりはないわ。オンラインで動画を見るだけでもいい。Twitterでハッシュタグを追うだけでもいい。
でも、もし。もし、君が今の仕事に少しでも息苦しさを感じていたり、自分の未来が見えなくて不安になったりしているなら。一度でいいから、あのカオスな空間を覗いてみてほしい。
何か劇的に変わる保証なんてない。明日から急に仕事ができるようになるわけでもない。でも、一つだけ約束する。
「悩んでいるのは、自分だけじゃなかったんだ」
そう思えることだけは、私が保証する。
それって、明日からもう一日だけ頑張るための、十分な理由になるんじゃないかしら。
会場のどこかで、疲れた顔でコーヒーを飲んでる女がいたら、それは私かもしれないわね。その時は、気軽に声をかけてよ。
じゃあ、またどこかの現場で。
佐々木 優